丸井金猊

KINGEI MARUI

GO TO CONTENT

芸工展2021「丸井金猊⇄法隆寺と聖林寺」

芸工展2021「丸井金猊⇄法隆寺と聖林寺」
東京国立博物館 特別展「聖徳太子と法隆寺」「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」を拝観して

2021年夏、東京国立博物館で二つの特別展「聖徳太子1400年 遠忌記念 聖徳太子と法隆寺」「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」が開催されました。
昨年、コロナウイルスの影響で中止となった同館特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」に着想を得、開催した丸井金猊「写と想像⇄創造」展に続き、今年も東博の二つの特別展に触発されて、法隆寺金堂壁画のコロタイプ印刷と、法隆寺百済観音聖林寺十一面観音等の複数の観音像に題材を求めた丸井金猊「観音圖」ほか聖徳太子関連作品を展示し、関連資料を収集した企画展を事前予約制にて開催いたします。

9月は独自開催、10月は地元のまちかど展覧会「芸工展2021」に参加しての開催となります。

取材記事

☞朝日新聞:幻の特別展を「再現」 法隆寺金堂壁画複製写真など(柏木友紀 2020年11月13日)
☞JIBUNマガジン:まちかどへ、芸術の旅①/上野の博物館と谷中を往復し体感「丸井金猊⇔法隆寺と聖林寺」展(稲葉洋子 2021年12月3日)

コロナの状況如何によっては開催中止の可能性もありますが、現時点では東京国立博物館が開催していることと、東京⇄大阪間の新幹線移動が可能であることを条件に開催の予定でおります。
マスク着用・検温・入場時の除菌・換気等、コロナ対策も行って参りますので、ご協力よろしくお願いいたします。

東京国立博物館 特別展「聖徳太子と法隆寺」「国宝 聖林寺十一面観音」を拝観して
芸工展2021「丸井金猊⇄法隆寺と聖林寺」

日時:2021年9月10日㊎〜13日㊊
      10月1日㊏〜4日㊊・29日㊎〜31日㊐ 13:00〜17:00
   1時間一組(4名様)迄の事前予約制 ☞予約状況確認・予約お申し込み
会場:丸井金猊ラボ∞谷中M類栖/1f(入場無料)
   〒110-0001 東京都台東区谷中1-6-3(Google Map
主催:丸井金猊ラボ∞谷中M類栖(代表:m-louis ←金猊の孫の丸井隆人)
情報提供・協力:宝塚市立中央図書館
印刷協力:remo [NPO法人 記録と表現とメディアのための組織]
SNS:FacebookInstagramLINETwitter ハッシュタグは #kingeimarui

東博の東洋館内にあるミュージアムシアターではVR作品『法隆寺 国宝 金堂―聖徳太子のこころ』を東博入館料(特別展をご覧になる場合は特別展料)とは別に600円でご覧になることが出来ます。これがバーチャルリアリティの世界ではありますが、法隆寺の現地でも立ち入ることの出来ない法隆寺金堂内部の視点に立つことが出来、大変オススメです。これも是非谷中M類栖で観てからご覧になるとリアリティが増すと共に、谷中M類栖の展示配置の意味がご理解できるかと思います。これも期間が10月10日㊐までで10月後半の展示期には終了していますが、是非併せてご覧ください。

展示作品

 ・観音圖* 1936(昭和11)年頃 紙本彩色, 四曲屏風 226.0×332.0cm(谷中M類栖 所蔵)
 ・聖徳太子二童子像* 1928(昭和3)年 絹本彩色, 額 50.8×70.0cm(個人蔵・江南市)
 ・唐本御影写 聖徳太子二童子像* 1928(昭和3)年 絹本彩色, 額 50.8×38.5cm(同上)
 ・馬上太子圖* 1928~35(昭和3~10)年頃 絹本彩色, 軸 52.3×38.5cm(個人蔵・一宮市)
 ・法隆寺金堂壁画12壁のコロタイプ印刷複製プリント(宝塚市立中央図書館 所蔵)

 *マークはタイトル不詳で、主催者が仮で設定したものです。

資料展示

 ・東京国立博物館 特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」図録
 ・同展特別販売「国宝・百済観音フィギュア」(海洋堂 制作)
 ・奈良国立博物館「法隆寺金堂壁画写真ガラス原板─文化財写真の軌跡─」図録
 ・日本美術全集2 法隆寺と奈良の寺院(小学館 出版)
 ・法隆寺監修・朝日新聞社編「法隆寺再現壁画 大型本」
 ・朝日新聞社「法隆寺 壁画と金堂」
 ・彩壺堂「法隆寺幻想展」図録
 ・アサヒグラフ増刊1968年4月15日「法隆寺金堂 壁画再現」
 ・再現壁画 模写画家13人の全集もしくは展覧会図録(近藤千尋だけ見つからず)
 ・なぜか家にある法隆寺の瓦                   ほか書籍多数

展示コンセプト

金堂壁画コロタイプ印刷の複製プリント(宝塚市立中央図書館 所蔵)

金堂壁画の複製写真は、昭和10年に京都の美術印刷会社・便利堂がガラス乾板に原寸大撮影した写真のコロタイプ印刷の複製品のデータプリントで、複製品自体は国内外25箇所の博物館、図書館、大学などに頒布されました。宝塚市立中央図書館もその所蔵先の一つで、2014年に同館で開催された「宝塚歌劇のあゆみ」展に金猊が東宝劇場の壁画に描いた『薫風』の下絵を出品したご縁で、今回その複製写真をお借りできることになりました。

法隆寺に現在設置されている再現壁画はこの写真を下図として安田靫彦や前田青邨ら当時の精鋭画家によって模写制作が行われており、実物を実見できない画家の目を補完する重要な二次資料となりました。しかし、当時の画家の手記を読むと写真に写った壁画の剥落や変色をどう捉えるか、将来の経年変化をどう想定するか、線描と色彩のどちらを重視するかなどで考え方にも差異があり、現物に忠実な写生と言ってもそこに画家の想像力に委ねざるを得ない面があることが伺えます。言い換えるなら模写から完全にそれを描く画家の作家性を消し去ることはできません。

丸井金猊ラボ∞谷中M類栖では、その複製写真を1号壁〜12号壁まで全12点、6号壁に関しては実寸サイズで出力し、他は縮小サイズにて、なるべく法隆寺と東西南北において同位置になるように展示します。また、各壁画の下にはキャプション型ファイルを配備し、壁画概要、焼損壁画、コロタイプ印刷、桜井香雲模写、鈴木空如模写、昭和の模写、再現壁画模写画像を見せた後にその再現壁画を担当した画家の代表作、プロフィール、そして再現壁画が完成した際に書かれた担当画家全員の報告文書を全文掲載し、その中から2箇所気になるテキストをピックアップして大きな字で読みやすいようにしました。

これによって再現画家たちの模写に対するスタンスとそれが各々の作品にどのように反映しているかをその場で確認できるのではないかと思っています。それを補完するために、各画家の全集・図録も用意し(近藤千尋を除く)、キャプション型ファイルの下に置きました。

丸井金猊「写と想像⇄創造展」展 北側壁面 丸井金猊「写と想像⇄創造展」展 東側壁面

丸井金猊「写と想像⇄創造展」展 西側壁面 丸井金猊「写と想像⇄創造展」展 南側壁面
※著作権の都合で、法隆寺金堂壁画の複写画像はモザイクを掛けています。
※東側の壁面は図面に起こしにくかったので昨年の芸工展展示写真に嵌め込みました。

百済観音を画中に収めた丸井金猊「観音圖*」(谷中M類栖 所蔵)

一方、23年ぶりに東京で公開されることになった像高約210cmの百済観音像の実物は、出所不明の謎多き仏像で、百済観音という名前が付いたのも大正時代に入ってからと言われています(それまでは虚空蔵菩薩と呼ばれていた)。

その百済観音を昭和11年頃に金猊は高さ226cm、横幅332cmの屏風(仮題「観音圖」)の中に描きました。

kannon.jpg

Kudara_kannon_1.jpg但し、金猊の観音は法隆寺の百済観音が右手を前に差し出し掌を天に向ける与願印の印相をしているのに対し、腕を上にあげ、中指を折るようにして蓮華を摘まんでいます。左手も実物は親指と中指で水瓶の口を摘まんでいるのに、何も持たずに親指と中指を合わせた中品中性の説法印の印相をしています。他にも宝冠や胸飾、腕釧を現物は錆びているにもかかわらず、新品の黄金色に仕立て上げました。そして百済観音を挟んだ人物の衣装にも他の観音像の衣相からの引用と思われるパーツが多数あり、金猊は百済観音の模写から想像を広げ、遊び心一杯の世界観を創造しています。

百済観音に関してもキャプション型ファイルを配備し、一宮市博物館「いまあざやかに 丸井金猊展」図録に寄稿された美術史研究者・山本陽子さんの「丸井金猊と古美術の学習」から観音圖に関するテキストを抜粋し、大きな字で関連図版を交えて紹介しています。

丸井金猊「写と想像⇄創造」展では、東博での展示と同一の対象を扱いながら複数の「写」を通じて見え隠れする「想像⇄創造」の間の、模写画家のみならず、それをみる/みてきた人々の反復に目を傾けて行きます。本来ならば特別展をみてからご覧いただきたかったのですが、その叶わなかった無念への鎮魂(レクイエム)と関係者の皆様への感謝を込めて祈りを捧げられるような場にできればと考えています。