丸井金猊

KINGEI MARUI

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1997年 その周辺の人たち展文集

想い出
中村和子(義理の従姉妹)

 丸井先生は私の従姉故さだゑ様のご主人なので、私にとっては義理の従兄です。

 戸塚の家の二階をアトリエになさっていた頃、先生の美しい絵を好奇の眼差しで拝見する私はまだ幼女でした。
 用事があって母に連れられ江戸川の家から戸塚の家に行くのも、先生の絵をそっと見るのが楽しみだったのです。先生のお留守の時きれいに整理されている絵の具をさわってみたり、絵筆をとり出して眺めたりと云う悪い子でしたが、子供心に先生のお描きなる美人画の美しさに魅かれていたのだと思います。

 その後、御縁があって従姉のさだゑ姉様と結婚されたのです。元々背が高く色白の美しい従姉でしたがみるみる中にもっと美しくなっていったのです。当時としては大変斬新なボブスタイルに髪型を変え、私の最も印象に残っているのは黒地に白の猫を染めぬきにした被布を召された従姉です。段々先生のお描きになる美人画にそっくりになっていきました。戦争前の着物ファッションは、固定観念の強いものばかりで私は一寸も面白くないと思っていたところ、大変ユニークなファッションを見ることが出来、ワクワクしていました。古い母たちの『まあ!!』と云う感嘆詞に従姉は、『亭主の好きな赤烏帽子ですの』と幸せそうに微笑んでいたのを、70歳になった今でも鮮明に記憶しております。

 長い戦争と戦後の混乱で、お互いに行き来もままならぬ中に私も戦後1年目には結婚して茅ヶ崎に住むようになりました。
 昭和30年頃だったと思いますが、一度先生が茅ヶ崎まで訪ねてくださったのが、先生とお目にかかった最後でした。

 現在孫の隆人さんや、甥の泰信さんが、アーティストとして活躍されているのは、亡き先生の御遺志を継がれている証だと、私も大変嬉しく思っております。合掌。

中村和子 - 心随萬境轉  轉處實能幽

心随萬境轉 轉處實能幽