Essay - 散文・論考(金猊筆) -

 何時の間にか詩的となった私の幽かな想像は直ぐ現実となって行くらしい。

 ほんとうに森厳な深夜である。一人で起きているには惜しい程其れ程余りに尊とすぎる。万象の総べてが沈痛な呻吟をもらしているかとも思われるが、そうでもない。耳を傾けて何物かを聞き出そう、出来る丈遠くの物音を──生の囁きでも死の歔欷でも──を聞こうとしても、机の抽出の中の腕巻き時計の金属的な微妙なるセコンドを刻む音ばかりがそれを防ぐかの如くチクタクと響く。

 バッタリと分厚な古典劇の書物を閉じて、堅い表紙を赤鉛筆のキャップでたたき乍ら、ふと自分が此の広い世の長い夜の中で唯一動いている蠢いている人だぞと思う。そうして此の世の中でこんなとりとめもない事を考えているのも自分一人かしらと思う。

─木材工芸科にもふれて──

神奈川工業高校工藝圖案科

 戦争中廃科の憂目をみていた工芸図案科が、終戦後の学制改革で三年制の工業高校として発足するに際し、木材工芸科とともに復活することになり、バラック建ながら機・建・電・電通の諸科と並んで新生の意気に燃え立ったのは、13年前の昭和23年春のことであった。旧制工業校から引続き高校へ切換った当時の諸科とは別に、木・図の二科はこの年新たな募集に応じて入学した生徒一年生だけで、そのうちには他の科からの転科者も若千あった。定員数は二科各々25名のところ、図案科7名、木材工芸科16名であったが、これで神工家族揃っての感激は現職員、生徒一同のみのものではなく、神工を護持するすべての人士の歓喜である筈のものであった。

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