Essay: 1927年

 何時の間にか詩的となった私の幽かな想像は直ぐ現実となって行くらしい。

 ほんとうに森厳な深夜である。一人で起きているには惜しい程其れ程余りに尊とすぎる。万象の総べてが沈痛な呻吟をもらしているかとも思われるが、そうでもない。耳を傾けて何物かを聞き出そう、出来る丈遠くの物音を──生の囁きでも死の歔欷でも──を聞こうとしても、机の抽出の中の腕巻き時計の金属的な微妙なるセコンドを刻む音ばかりがそれを防ぐかの如くチクタクと響く。

 バッタリと分厚な古典劇の書物を閉じて、堅い表紙を赤鉛筆のキャップでたたき乍ら、ふと自分が此の広い世の長い夜の中で唯一動いている蠢いている人だぞと思う。そうして此の世の中でこんなとりとめもない事を考えているのも自分一人かしらと思う。

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