芸工展2024「丸井金猊 - 月到天心処」
第32回を数える芸工展2024に今年も丸井金猊ラボ∞谷中M類栖は参加します。
北宋の儒学者、
それらの漢詩・俳句の字面をネタに思い浮かんだ金猊の作品を並べ、その参照源と思われる資料や複製作品と共に展示します。
と一見意味ありげな概要を用意してますが、「字面をネタに」とあるように至って表層の言葉遊びに耽った企画で、特に「天心」という文字列に引っ掛けて横山大観や菱田春草の作品を引き合いに出して遊んでる展示となっています。企画に至るプロセスにご興味ありましたら下記ご一読の上、お気軽にお立ち寄りください。
芸工展2024「丸井金猊 - 月到天心処」
日時:2024年10月5日㊏〜6日㊐・10月11日㊎〜14日㊊㊗ 13:00〜17:00(最終日16時まで)
会場:丸井金猊ラボ∞谷中M類栖/1f(入場無料・予約不要)(マップ⑱)
〒110-0001 東京都台東区谷中1-6-3(Google Map)
主催:丸井金猊ラボ∞谷中M類栖(代表:m-louis)
SNS:Facebook、Instagram、LINE、X(Twitter) ハッシュタグは #kingeimarui
Peatix
邵雍 =邵康節 「清夜吟 」より
原文
月到天心処 月、天心にいたるところ
風来水面時 風、水面に来たるとき
一般清意味 一般の清意の味わい
料得少人知
月が天空の中心に到り
風が水面に吹き来たるそのとき
自然の有り様 を味わおうとしても
それを知り得る者の稀なることよm-louis(主催者)推測訳月が天に昇り
風が水面を揺らす時
普遍で明らかなその意味※
それを知る者は少ない※意味→「意味」と「心の味わい」どちらも
Kasuke(主催者の妻)タイ語変換してからの訳
ティェンタオの自由訳漢詩 2218」に<「清夜吟」は爽やかな夜の歌という意味ですが、清夜の感懐を述べたものではありません>とあり、漢詩・漢文ずぶのド素人ながらm-louisはその見解を支持し、他に多く見られる清夜の感懐を述べた訳文には拠らずにこちらの訳文を採り入れ少し直訳に近い形に改めました。(2024.9.20)
当初ド素人訳のみを掲載していましたが、検索に掛かり出すと誤解される可能性があるので、本日時点の検索で上位検出される訳をリンク先提示で転載しておきます。また、会期中にお客様にもどのように解釈されるか伺い、その訳文をサイトや会場でも展示したいと考えています。こちらのアンケートでも回答できるように致しましたので、お気軽にご協力ください(2024.9.28)
月が夜空の 中天にかかるころ
風が水面に 吹き寄せるとき
天地万物の 法則を考えてみるが
人はその意味を 理解していないようだ「ティェンタオの自由訳漢詩 2218」より転載月は天の中心にかかり、
風は一陣水面を吹き払う。
このすべてさわやかな味わいよ。
これを知る人はまれである。「みやと探す・作品に書きたい四季の言葉」より転載つきがよぞらにさしのぼるとき
かぜがみなもをふきなでるとき
こんなすてきなよるもないのに
たのしむひとのすくなきことよ「横山悠太の自由帳」より転載真夜中に月が天頂に至るころ
冷んやりとした風が水面を渡る
なんと清々しく味わいのある光景だろうか
ただ この静かな夜更けに
その美しさを知る人はとても少ない「日本画いろは川村愛」より転載
与謝蕪村『蕪村自筆句帳』529より
推測含意
①月が夜空の中心に達したころ、貧しい町を通り過ぎたNippon.com 深沢 了子「月天心(てんしん)貧しき町を通りけり ― 蕪村」の訳文を転載②月が天空を通りながら貧しき町を照らしていく
塩谷靖子「ブソニストのよしなしごと」を参照し、改訳
この2訳は主体が①人間 ②月と全く異なる視点にあり、m-louis は②の視点に立脚して②のみ少し改訳しました。
萩原朔太郎「郷愁の詩人 与謝蕪村」では①の視点で次のように書かれています。
月が天心にかかっているのは、夜が既に遅く
更 けたのである。人気 のない深夜の町を、ひとり足音高く通って行く。町の両側には、家並 の低い貧しい家が、暗く戸を閉 して眠っている。空には中秋 の月が冴 えて、氷のような月光が独り地上を照らしている。ここに考えることは人生への或る涙ぐましい思慕の情と、或るやるせない寂寥 とである。月光の下 、ひとり深夜の裏町を通る人は、だれしも皆こうした詩情に浸るであろう。しかも人々はいまだかつてこの情景を捉 え表現し得なかった。蕪村の俳句は、最も短かい詩形において、よくこの深遠な詩情を捉え、簡単にして複雑に成功している。実に名句と言うべきである。 萩原朔太郎「郷愁の詩人 与謝蕪村」
未形の空「[151]月天心貧しき町を通りけり 」に全品詞分解・1語1語現代語訳と複数の解釈が詳しく掲載されています。
企画経緯
2023年10月末に所用で福島県のいわき湯本に出向いた際、常磐線の少し手前にある茨城県の
そこで天心に従い家族を引き連れ移住した横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山らは目の前に広がる太平洋と自然以外に何もない僻地のような環境下で、新しい日本画の表現を模索・探究する創作活動を行います。
現在、岡倉天心の住居跡は旧天心邸・六角堂・長屋門を残す形で茨城大学五浦美術文化研究所に移管され、1997年には五浦海岸の北側に岡倉天心らの業績を顕彰する茨城県天心記念五浦美術館が建てられ(内藤廣 設計)、彼らの作品を観ることができます。私もまず美術館を訪れ、昼食を取ってから住居跡に向かおうとしたところ、店を出ると太平洋に重たい雲が覆い始めていて住居跡に着いたときには風も強まり雨降る一歩手前。早足で六角堂まで降り、六角堂越しに見られる太平洋の荒い海を目に焼き付けて参りました(大慌てだったため写真はぶれ気味のものばかり)。
最寄りの常磐線・大津港駅に着いたときには土砂降りでいわき湯本に向かう汽車の中でふと思いました。来年の芸工展のテーマを岡倉天心にしたらどうだろうか?と。というのも丸井金猊は妻さだゑに結婚前に岡倉覚三『茶の本』の翻訳本をプレゼントしていたという話を母(金猊の長女)から聞いており(但し私はこの件で母に再確認するまで祖母が金猊にプレゼントしたものだと勘違いしていた)、その点でも企画になる可能性は高いと思えたからです。
美術史研究者の山本陽子さんが『いまあざやかに丸井金猊展』図録で<仏像のような古美術を日本画学習の手段として写生するのは、岡倉天心以来の東京美術学校の伝統であった。(中略)古美術を学び、西洋文化も取り入れる、古今東西の取り合わせという発想もまた、東京美術学校で身に付けたものではなかったか>と書かれていて、金猊作品はまさにその伝統(といってもある種イノベーティヴな伝統)に則ったと思えるところも多く見られます。ただ、天心の関連書籍を読み、横山大観と菱田春草の全集を購入し改めて目を通したとき、この辺で影響受けていそうと憶測は立てられるのですが、それを裏付けられるだけの金猊側の情報が不足していて、天心を主題とした企画を立てるのはお粗末なように思えて来ました。それと金猊が妻にプレゼントした『茶の本』は三鷹→谷中に引越時に仕様もない理由で紛失し、その現物が展示できないという弱みもあります。
そうこうするうちに芸工展の申込み期日が迫り、今年は非開催もやむなしかと諦めかけたときに与謝蕪村の「月天心貧しき町を通りけり」の俳句が目に留まり、この句には「天心」という文字列が入っているなと思いながら、句のニュアンスを確かめようと検索するとこの句が
意味は違えどそこに「天心」という文字列はあり、天心の存在を大上段に構えずにネタとして気軽に扱うこともできます。結果として元々考えていた企画のために購入した横山大観と菱田春草の全集はそのまま活用して、大観と春草がモチーフとした主題を金猊がどう捉え直したか、それを図版や複製作品と金猊作品を並べて遊ぶ展示としました。出品予定の作品を何点かをサイド画面に掲示しています。大観と春草のどの作品が引き合いに出されたかご想像いただくのも面白いかもしれません。
出品予定作品
- 椿*(1928年・額)
- 伊勢海老と蛤*(1928年・額)
- 兎と山茶花*(制作年不詳・タペストリー)
- 鷺圖(1930〜35年頃・額)
- 南天絵圖(1932年頃・軸)
- 旭々波涛圖(制作年不詳・軸)
- 浴女(1937年・軸)
- 壁畫に集ふ(1938年・屏風)
- 青龍老栖富嶽の図(1977年・額)
- 月明(1930年頃・軸)
- 柿と八つ手に猫(制作年不詳・下絵)
芸工展の2つの別企画にも参加!
芸工展2024(マップ㊷)
池之端画廊 上野の森を巡る画家たち展(Ⅱ)(金猊参加)
出品者名:朝倉 文夫、松本 姿水、小絲 源太郎、安田 半圃、木内 克、望月 春江
(生年順)田中 佐一郎、熊谷 登久平、布施 悌次郎、大河内 信敬、橋本 八百二、丸井 金猊
宮崎 精一、鈴木 美江、野間 傳治、絹谷 幸二、松本 昌和 ほか
2024年10月2日㊌〜20日㊐ 11:30〜18:00
月曜・火曜休廊/初日13:00から・日曜16:00まで
東京都台東区池之端4-23-17(Google Map)
https://www.ikenohata-art.com
芸工展2024(マップ㉝)
PHASE番外編10「巻紙の宇宙」(m-louis参加)
井上ひろ子、織田和子、北川亜紀子、小池航
小林操子、酒井洋子、田中みどり、坪内紀子
点灯夫と転轍手、藤井志津子、丸井隆人
村山節子、吉田佳寿美
協力:井上義教、藤井アキラ
2024年10月8日㊋〜14日㊊㊗
11:00〜19:00 最終日17:00まで
ギャラリーTEN
東京都台東区谷中2-4-2(Google Map)
http://galleryten.org/ten/(企画案内)